抄録
植物の先端成長は環境要因によって大きく変化し、その結果は細胞増殖と体積増大(体積成長)の違いとして現れる。私達は細胞増殖と成長とを関連づける独自の数理モデルを組み込んだ細胞動力学的手法を用いて、異なる温度条件で生育したシロイヌナズナ根端成長を解析し、細胞増殖と体積成長の複合的な関係を解体し定量的に分析してきた。これまで、28℃、22℃、16℃の3条件で予備的な解析を行い、22℃と28℃では成長の空間パターン、比コスト係数ともに顕著な違いがない一方(「比コスト係数」は数理モデル解析によって算出されるパラメータであり、細胞増殖、体積成長、器官維持の各側面の相対的効率を反映する)、16℃では22℃、28℃と比べて体積増大速度が著しく低下しており、細胞増殖率に関しても減少が認められることなどを明らかにした。今回は、この3条件でサンプル数を増やして十分なデータを得るとともに、25℃と19℃の条件でも根端成長の測定を行い、より詳細に温度条件の違いによる影響を解析した。また、解析にはG2/M期マーカー遺伝子のCYCB1;1p::CYCB1;1:GUSを持つ形質転換体を用い、根端の分裂域におけるGUS発現細胞数を測定して、細胞動力学的解析の結果との比較も行った。本発表ではこれらの結果に基づき、温度が根端成長に与える影響の本質について報告する。