抄録
多くの植物の葉において、向軸側(表側)に柵状組織が、背軸側(裏側)に海綿状組織が発達するなど、向背軸に依存した細胞分化が見られる。これは葉原基の向軸側・背軸側それぞれで異なる遺伝子群が発現し、適切な細胞分化を起こすためと理解されている。それぞれの遺伝子が特異的に発現するには、予め何らかの極性が向背方向に形成されなければならないと考えられるが、その向背の極性を形成する分子機構は未だよくわかっていない。
シロイヌナズナ FILAMENTOUS FLOWER (FIL) は背軸側特異的に発現して、背軸側の細胞分化を促す遺伝子の一つである。葉原基形成のごく初期からこの特異的発現が見られることから、我々は FIL 発現パターンを向背の極性の指標と捉え、そのパターンに変化の見られる突然変異体を向背の極性が異常な突然変異体として単離した。
突然変異体#2.0-07-4では FIL プロモータ制御下での GFP 発現が野生型に比べて向軸側にまで拡大していた。そこで葉の向軸側の葉肉細胞を観察すると、複雑な凹凸を持つ細胞や広い細胞間隙など、海綿状組織のような特徴が見られた。このことから#2.0-07-4は向軸側の組織が背軸側化した突然変異体であると考えられた。
現在#2.0-07-4の原因遺伝子のクローニング、詳細な表現型解析、fil突然変異体との二重突然変異体の解析を進めている。