抄録
光化学系II反応中心D1タンパク質は、前駆体タンパク質として翻訳された後にC末の延長配列(9~16a.a.)が切断除去されることにより成熟する。成熟タンパク質のC末端領域は、水分解反応に関わる4Mn-1Caクラスターや酸素発生複合体(OEC)の配位に関与することから、この延長配列の切断過程は水分解反応の機能発現に必須である。またこの過程はD1タンパク質の速い代謝回転にも関与すると推定されているが、その詳細は明らかになっていない。D1タンパク質は、シアノバクテリアから陸上植物まで保存性が高く、その延長配列も普遍的に存在する。しかし、一部の葉緑体二次共生生物の中に、例外的に延長配列をもたないものがいることが報告されている。D1タンパク質の延長配列の機能解明の手がかりを得るため、私たちは葉緑体を紅藻(ハプト藻)から受け継いだ渦鞭毛藻に着目した。渦鞭毛藻の一種について、D1タンパク質をコードするpsbAを解析したところ、構造の異なる複数のpsbAが存在することが明らかになった。渦鞭毛藻ではpsbAを含むいくつかの葉緑体遺伝子は遺伝子が一つずつコードされた環状ゲノム構造(ミニサークル)をもつことが知られている。本発表では、得られた複数のpsbAの遺伝子構造、およびD1タンパク質の機能発現に重要なC末アミノ酸配列などの特徴について報告する。