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BiPは小胞体のHsp70である.シロイヌナズナにはAtBiP1,AtBiP2,AtBiP3の3つのBiP遺伝子が存在する.AtBiP1遺伝子とAtBiP2遺伝子は通常の生育条件において植物全体で発現し,AtBiP3遺伝子は小胞体ストレス条件下でのみ発現する.
3つのAtBiP遺伝子の単独のT-DNA挿入変異株は生育や形態に異常が見られなかった.そこでこれらの遺伝子の二重破壊株の作製を試みたところ,AtBiP1とAtBiP2両遺伝子の二重破壊株は得られなかった.従って,AtBiP1とAtBiP2両遺伝子の機能が重複しており,生育に必須であることが示唆された.
AtBiP1とAtBiP2両遺伝子の配偶子における機能を調べるために,AtBiP1変異遺伝子をヘテロに,AtBiP2変異遺伝子をホモに持つ変異体と野生株との掛け合わせ実験を行った.その結果,AtBiP1とAtBiP2両遺伝子の欠損により,雄性配偶子である花粉は機能欠損が見られないのに対し,雌性配偶子である胚嚢の機能欠損が引き起こされることが示された.AtBiP1,AtBiP2両遺伝子両遺伝子を欠損する胚嚢に由来する胚は発生初期に発達が停止していた.興味深いことに,胚嚢の機能欠損は雄側から供給されたAtBiP遺伝子によって相補されなかった.