抄録
多くのシダの配偶体は,雄性化を誘導するフェロモンであるアンセリジオーゲンによって,その性比が調節されている。本研究では,リチャードミズワラビの配偶体を用いて,アンセリジオーゲンによる配偶体の雄性化が光形態形成に作用する光によって影響されるかどうかについて検討した。
最初に,リチャードミズワラビのアンセリジオーゲン(ACe)に非感受性の突然変異体であるher1の配偶体が,ACe存在下での青色光処理によって,高い割合で雄性化することを見出した。しかしながら,野生型の配偶体では,青色光処理がその雄性化を促進するという結果は観察されなかった。この理由として,野生型の配偶体では,ACeに対する感受性が暗黒下ですでに飽和していることが考えられた。実際,暗黒下においてアンセリジオーゲンに対する感受性が低かった別種のミズワラビの配偶体では,青色光による雄性化の促進効果が観察された。これらのことから,我々は,青色光によって活性化されるもう一つのACe情報伝達経路がリチャードミズワラビの配偶体に潜在的に存在するものと考えている。一方,赤色光は,逆に雄性化を抑制した。白色光もまた雄性化を抑制したことから,赤色光は,青色光よりも優位に作用するものと思われる。また,光形態形成に関する突然変異体を用いた実験から,クリプトクロムおよびフィトクロムがこれらの青色光と赤色光の作用にそれぞれ関与することが示唆された。