抄録
酸化ストレスは、光化学系の修復に必要なタンパク質の新規合成を翻訳伸長反応の過程で阻害する。本研究では、翻訳伸長因子EF-Gの機能に着目して翻訳系の酸化ストレス傷害のメカニズムを解析した。ラン藻Synechocystis sp. PCC 6803からチラコイド膜を含むin vitro翻訳系を作製し、psbA2 mRNAを鋳型として光化学系IIのD1タンパク質を合成させた。その結果、合成されたD1タンパク質がチラコイド膜中の光化学系II複合体に組み込まれることを確認した。D1タンパク質の合成は、40 mM NaN3の存在下で10 mM H2O2を添加することにより阻害された。
SynechocystisのゲノムにはEF-Gをコードする4つの遺伝子(sll1098, slr1463, sll0830, slr1105)が存在する。それぞれのEF-GをHisタグの付いた組み換えタンパク質として精製した。H2O2で阻害させたin vitro翻訳系に対して還元型のEF-Gを添加すると、4つEF-Gすべてにおいて阻害されていた翻訳活性が回復した。しかし、酸化型のEF-Gに翻訳の回復効果が見られなかった。これらの結果は、EF-Gが活性酸素のターゲットとなって酸化され、翻訳反応が阻害されることを示唆している。