抄録
気孔孔辺細胞におけるABAシグナル伝達において蛋白質リン酸化反応が重要な役割を担うことが示されているが、そのシグナル伝達メカニズムは分子レベルではほとんど明らかになっていない。我々はソラマメ孔辺細胞においてABAに応答してリン酸化レベルの変動する蛋白質を、多くのリン酸化蛋白質と結合することの知られる14-3-3蛋白質をプローブに用いて検出した。その結果、ABAに応答して14-3-3蛋白質と結合する分子量61 kDaの蛋白質を見出した。この蛋白質は葉肉細胞や根には存在せず、孔辺細胞の細胞質に局在した。14-3-3蛋白質との結合は生理的な濃度のABAによって引き起こされ、3分以内に最大に達する早い反応でin vivoでも起こった。この反応はH2O2や細胞外Ca2+を必要としなかった。また、14-3-3蛋白質の結合は61 kDa蛋白質のリン酸化に依存していた。ABAに活性化されるキナーゼAAPK(48kDa)の自己リン酸化は、ABAに応答する時間経過やプロテインキナーゼ阻害剤であるK-252aに対する感受性などの点で61 kDa蛋白質のリン酸化とよく似ていた。さらに、AAPKはABAに活性化された場合のみin vitroで61 kDa蛋白質をリン酸化した。以上の結果は、61 kDa蛋白質がABAシグナル伝達の初期段階においてAAPKの基質としてはたらく可能性を示唆している。