抄録
アルミニウム (Al) イオンは、細胞表層に吸着し増殖を阻害するが、阻害機構の詳細は不明である。これまでに、タバコの培養細胞を用いてAlイオンに対する応答反応を24時間解析した結果、前期(Al添加直後から6時間程度まで)と後期(6時間以降)に分かれ、カロース分泌や増殖能低下等の障害応答は、後期に誘導されることが分かっている。これに加え、サリチル酸 (SA) の合成も後期に誘導されることが明らかになった。そこで、本研究では、SAが他の応答反応を誘導する可能性について検討した。SAを加水分解するサリチル酸ヒドロキシラーゼをコードする細菌由来の遺伝子NahGを導入した形質転換タバコ培養細胞を作成し、非形質転換体とAl応答反応を比較した。その結果、NahG形質転換体では、カロース分泌が半分程度に抑制されるが、増殖能に大きな違いは見られなかった。次に、タバコ植物体の根におけるAl応答反応(カロース分泌と根伸長阻害)をNahG形質転換体と非形質転換体とで比較した。Al処理開始後24時間では、両者に差は見られなかったが、数日経過するとNahG形質転換体の方が非転換体よりもカロース分泌量がやや抑制され、根伸長が良いことが分かった。以上の結果より、Alストレス下の障害応答であるカロース合成と根伸長阻害の一部は、Alで誘導合成されるSAを介して2次的に誘導される可能性が示唆された。