抄録
光化学系IIは高温ストレスに対して感受性が高く、容易に失活する。それに対して光合成生物は、あらかじめ穏やかな高温で生育した場合、光化学系IIの熱安定性を増大させるという適応機構を発達させている。本研究では、ダイズ培養細胞を用いて光化学系IIの高温適応の分子機構を解析した。細胞の培養温度を25℃から35℃に上げることによって、単離したチラコイド膜における光化学系IIの熱安定性が増大した。しかし、チラコイド膜を0.05% Triton X-100で処理してその包膜構造を破壊すると、獲得された高温耐性は失われた。また、35℃で培養した細胞からチラコイド膜のルーメン画分を調製し、25℃で培養した細胞から単離したチラコイド膜に加えると、光化学系IIの熱安定性が増大した。しかし、このルーメン画分を煮沸処理あるいは限外濾過すると、光化学系IIの熱安定性を増大させる能力はなくなった。以上のことから、熱安定性を増大させる因子はルーメン画分に局在する何らかのタンパク質であることが示唆される。現在、このルーメン画分を各種カラムクロマトグラフィーで分離し、光化学系IIの熱安定性を増大させるタンパク質の精製と同定を進めている。