抄録
C4植物の成熟葉には発達した2種の光合成細胞,葉肉(M)細胞と維管束鞘(BS)細胞が存在する.M葉緑体は細胞膜に沿って均一に分布している一方,BS葉緑体は維管束側(求心的)またはM細胞側(遠心的)に局在している.このような葉緑体の細胞内配向性は,M細胞とBS細胞間の効率的な代謝産物輸送やBS細胞内で脱炭酸されたCO2のM細胞側への漏れ抑制のために効果があると考えられている.我々は,このBS葉緑体の細胞内配向性は細胞の発達と共に獲得されること,遠心力をかけて配列を乱しても1~2時間後には元の配列に戻ること,配向性獲得にはアクトミオシン系と新規タンパク質合成が関与する一方チュブリンや光は必須でないことを明らかにしてきた.
本研究では,両細胞の葉緑体の配向性が環境ストレスでどのように影響されるかを調べた.シコクビエ成熟葉を強光に曝すと,M葉緑体では逃避反応が見られたが,BS葉緑体の求心的配列に変化は見られなかった.M葉緑体の逃避反応は真夏の太陽光に曝されたシコクビエ葉でも観察された.また,乾燥ストレスに陥っているシコクビエ葉でもM葉緑体の逃避反応が見られたが,BS葉緑体の配列に変化はなかった.同様の現象はトウモロコシでも確認している.これらの結果より,様々な面で機能分化しているM,BS細胞は,環境の変動に応じた葉緑体の配向性制御機構においても違いが見られることが明らかとなった.