抄録
哺乳類において、電子伝達フラビン蛋白(ETF)はαサブユニットとβサブユニットによって構成されるヘテロ2量体であり、少なくとも9つのミトコンドリアマトリクス局在脱水素酵素の電子受容体である。ETFによって受けとられた電子はETF-ユビキノン酸化還元酵素(ETFQO)を介して呼吸鎖-電子伝達系へと渡される。ETFに電子を渡す9つの脱水素酵素は、それぞれ脂肪酸のβ酸化、アミノ酸分解、コリン代謝の鍵となる酵素であり、ETFの働きは複数の代謝経路に必須である。シロイヌナズナゲノムを探索したところ、哺乳類のETFαとETFβの相同遺伝子がそれぞれ一個ずつ見つかった。そこで酵母2ハイブリッド実験によってシロイヌナズナETFαとETFβがヘテロ2量体を形成しうる事を確かめた。次にETFの植物での機能を調べるため、ETFβのT-DNA挿入変異株を単離し、解析を行ったところ、長期暗所条件下でetfb変異株は野生株に比べてより早く枯死した。このときのetfb変異株と野生株における代謝産物プロファイル計測したところ、ロイシン、イソロイシン、バリン、などのアミノ酸とIsovaleryl-CoA、そしてPhytanoyl-CoAがetfb変異株で顕著に蓄積していた。これらの表現型の特徴は、以前に我々がetfqo変異株で観察したものと酷似しており、植物でもETFとETFQOが相補的に機能しているという仮説を裏付けるものである。