抄録
地衣類は菌類中に藻類が共生して光独立栄養的に生育し、乾燥すると光合成電子伝達系を停止し、水分吸収後は迅速に電子伝達を再開することで乾燥に耐える。乾燥時は吸収した光エネルギーを熱に変換し、過剰な酸化力・還元力の蓄積による光化学系の光阻害を防ぐと推定されてきた。しかし、この物理的メカニズムは不明である。地衣類20種類を採集し、乾燥時のアンテナ色素系と電子伝達系のふるまいを検討した。77Kでの定常蛍光スペクトル測定から、地衣類の光合成系を3種類(シアノ型、緑藻型1、緑藻型2)に分類できることを見出した。更にピコ秒蛍光寿命測定から、シアノ型、緑藻型1は乾燥時の光化学系IIの蛍光寿命が5から10倍速くなり、未知の蛍光消光機構により光化学系IIを保護することがわかった。蛍光消光は水添加後30秒以内に解消された。他の1種類(緑藻型2)は蛍光消光機構をもたず、アンテナサイズを小さくすることで光化学系IIを光阻害から保護した。いずれも光化学系Iアンテナ系には大きな変化がなかった。乾燥細胞のPAM測定では光誘起によるQaの還元は観測されなかったが、ナノ秒領域での遅延蛍光が観測される事から、P680からフェオフィチンへの電子移動が一部確認された。また、ミリ秒領域の遅延蛍光や熱発光測定を行い、光化学系IIの電子伝達系について検討した。これらの結果を元に、乾燥時に地衣類が光阻害を防ぐメカニズムを考察する。