抄録
植物ミトコンドリア呼吸鎖にはATP産生と共役しない経路として、alternative oxidase(AOX)を介するシアン耐性経路とuncoupling protein(UCP)経路が存在する。これらはエネルギー的には無駄な経路であるが、還元力の過剰時に活性酸素生成の抑制やTCA回路の回転維持に貢献すると考えられている。
シロイヌナズナにはAOX1a, 1b, 1c, 1d, 2, UCP1-6が存在する。25℃栽培の植物に10℃処理を施し、そのロゼット葉を実験に用いた。10℃処理3時間後にAOX1aとUCP5の発現が一過的に増加した。AOXタンパク質量の増加に伴いシアン耐性呼吸速度も上昇した。酸化ダメージの指標であるmalondialdehyde量は、AOX増加に伴い減少した。10℃処理下ではAOXとUCPが共に還元力の消去に働いていると考えられる。また、10℃処理下での両者の発現パターンは、Boreckyら(2006)が報告している4℃処理下での発現パターンとは異なっていた。したがってストレス強度に応じたAOX、UCPの使い分けがあることが予想される。
そこで、本研究では、10℃と4℃処理間で呼吸鎖酵素の発現パターンや呼吸系の応答の違いを詳細に調べ、負荷の異なる低温ストレスに対する植物の応答について考察する。