抄録
ミロシン細胞はアブラナ科に特徴的に存在する異型細胞であり,細胞内にはミロシナーゼというβ-グルコシダーゼを大量に蓄積している.ミロシナーゼはグルコシノレイト(カラシ油配糖体)を分解して害虫に対する忌避物質を生成することから,生体防御機構を担っていると考えられている酵素である.われわれの先行研究により,シロイヌナズナの液胞膜と液胞前区画膜に局在するSNAREタンパク質AtVAM3の変異体において、ミロシン細胞の数が異常に増加することが見出された(1).そこで,ミロシン細胞の分化メカニズムの解明を目的として,atvam3変異体の解析を行った.DNAマイクロアレイ解析の結果,atvam3変異体ではオーキシン関連遺伝子の発現が低下していた.atvam3変異体の幼植物体においては,オーキシン応答性レポーター遺伝子DR5::GUSの発現低下が見られた.ミロシン細胞が維管束に沿って分布することからオーキシン極性輸送阻害剤で処理したところ,維管束の分化パターン同様にミロシン細胞の分布も影響を受けることが示された.また,atvam3変異体では高次脈が顕著に減少し,野生型では見られない2次脈の不連続性が観察された.以上の結果から,ミロシン細胞の分化にはオーキシンが関与していることが示唆された.
(1)Ueda et al. (2006) Plant Cell Physiol., 47,164-175