抄録
Agrobacterium tumefaciensは,植物に感染すると腫瘍組織の形成を引き起こす.6b遺伝子は菌の保有するTiプラスミドのT-DNA上に存在する腫瘍形成遺伝子の一つである.AKE10株から得られたAK-6b遺伝子を発現させたタバコでは,内生オーキシンやサイトカイニンレベルが正常であるにも関わらず,ホルモンフリー培地でもカルス化し増殖する,形態変化を起こす,オーキシンの極性移動が低下する,などの性質を示す.今回我々は内生オーキシンの局在と形態変化の関係をより詳しく調べるために,組織切片を作製して解剖学的な知見を得るとともにインドール酢酸(IAA)に対するモノクローン抗体を用いて組織化学的な解析を行った.我々はデキサメタゾン(Dex)投与によって発現が誘発されるAK-6bのコンストラクトをタバコに導入した.T1世代の種子をDexを含むMS培地に播種し,実生を経時的に採取し,固定,切片を作成して,トルイジンブルーで染色,あるいはIAA抗体によるオーキシンの検出を行った.子葉の横断面で見ると,形態変化は7日目以降の子葉の裏側に認められた.一方,オーキシンは5日目までは断面全体に均一に存在し,6~7日目から葉の裏側に優先的な蓄積が認められた.葉の裏側の形態変化もほぼ同様の時期に認められた.このことから,形態変化とオーキシンの局在には密接な関係があることが示唆される.