抄録
色素体は、120~160kbpの環状DNAからなる独自のゲノムを持つ。色素体ゲノムには,約40種の光合成関連遺伝子,約60種の遺伝子発現関連遺伝子,及び数種のその他の遺伝子がコードされている。色素体の重要な特徴は,組織に応じて様々な形態や機能をもつ色素体を分化させる能力を持つ点である。色素体の分化に伴い,その遺伝子発現は大きく変化すると考えられるが,葉緑体以外の色素体に関する研究例は限られている。本研究では,色素体DNAのTilingマクロアレイを利用し,シロイヌナズナ色素体遺伝子の組織・器官別発現パターンを網羅的に解析し,各組織で発現する遺伝子のカタログ化を行った。その結果,以下の事実が明らかになった。(1)発芽8日目の実生,ロゼッタ葉,茎生葉,茎などにおける色素体遺伝子発現パターンはほぼ同一であった。(2)実生の色素体遺伝子の発現は,発芽初期にダイナミックに変化する事が分かった。(3)根における色素体遺伝子の発現は,葉に比べ大きく減少しているが,accD遺伝子の発現のみが根でも一定のレベルを維持していた。(4)種子の登熟過程でも色素体遺伝子の発現は大きく減少していくが,trnEや5SrRNAなど一部の遺伝子の発現がむしろ強まることが分かった。以上の結果から,組織別の色素体遺伝子発現の制御において,転写及び転写後制御が重要な役割を果たしている事が明らかになった。