抄録
色素体RNAポリメラーゼの一つ,原核型のPEPは主に光合成遺伝子の転写に関わり,ファージ型の NEPはハウスキーピング遺伝子を転写する。PEPは活性部分のコア酵素とプロモーター認識に必須のシグマ因子とから構成され、シグマ因子の交換によって転写する遺伝子群を一括して変換すると考えられている。シロイヌナズナの場合、6個のシグマ因子遺伝子(AtSIG1-AtSIG6)が存在し,その全てが核ゲノムにコードされている。しかし,それらの機能分担の詳細はまだ明らかになっていない。我々は, AtSIG6がσ70型の葉緑体プロモーターを広く認識するシグマ因子で,葉緑体分化の初期過程で重要な働きをしていることを明らかにしている。本研究では,sig6-1変異体に各シグマ因子を発現させることで,それぞれのシグマ因子がAtSIG6の機能を相補できるかを検討した。その結果,AtSIG1,AtSIG3,ATSIG4の場合,sig6-1変異体で発現が減少する多くのPEP依存遺伝子の発現を回復させる傾向が見られた。一方, AtSIG2,AtSIG5は,それぞれtRNA遺伝子,およびpsbA,psbD,psaAの光化学反応中心遺伝子など,比較的限定された遺伝子の発現を回復させた。本研究により,植物シグマ因子のプロモーター認識特性に偏りがあり,それが色素体の遺伝子発現制御に重要な役割を果たしている可能性が示唆される。