抄録
葯のタペータム内には、タペトソームとエライオプラストという二種類の特徴的な脂質系オルガネラが存在する。花粉は、花粉管を伸長する前に、柱頭上で吸水・接着・認識といった幾つかのプロセスを経るが、その際ポーレンコートとよばれる花粉表面に存在する脂質に富んだ成分が重要な役目を果たす。このポーレンコートが形成されるためには、タペータムからの脂質成分の放出と花粉壁への沈着という特異のプロセスが必要である。私達は、タペータム内の脂質系オルガネラの形成及びその内包成分のタペータムからの放出と花粉壁への沈着のメカニズムを明らかにすることを目的に研究を行った。
加圧凍結技法を用いて野生型の葯を電子顕微鏡観察したところ、エライオプラスト内の脂質成分は白い顆粒状物質として観察されたが、同じ物が化学固定法では黒い物質として観察された。一方、タペトソーム内物質は、凍結固定でも化学固定でも黒く観察された。すなわち、固定法の違いによって脂質成分を識別することができた。この手法を用いて詳細に観察を行い、タペトソーム内の脂質とエライオプラスト内の脂質が、タペータムから異なるプロセスで放出され、花粉壁に沈着することを明らかにした。