抄録
DNAのメチル化は、クロマチン構造を制御し、遺伝子の発現を調節することが知られている。このことはDNAのメチル化状態が変化すると、遺伝子発現が変化し、最終的には生物の形質が変化することを示唆する。私たちは、イネ種子(ヤマダニシキ)を脱メチル化剤5-アザデオキシシチジンで処理し、矮性かつ早生の変異株を得た。この形質は、少なくとも9代目まで安定に遺伝した。DNAメチル化レベルの低下も安定に遺伝していることが明らかになった。そこで、MSAP法によって、変異株ゲノムの脱メチル化領域を探索したところ、十数個の遺伝子領域が同定された。それらのうちXanthomonas oryzaeに対する抵抗性遺伝子であるXa21-likeについて詳しく検討した。この遺伝子は変異株では恒常的に発現しており、病原菌抵抗性も各世代にわたって向上していた。そこで、発現とメチル化との関連を調べるため、プロモーター領域のメチレーションマッピングを行った。その結果、野生株では高度にメチル化されていること、しかし変異株では大幅に脱メチル化されていることが明らかになった。以上の結果から、病原菌抵抗性は、塩基配列の変化をともなわない変異であり、安定に遺伝することから、エピジェネティック遺伝と考えられた。つまり、ある個体が獲得した形質は場合によっては遺伝することが示唆された。