抄録
高塩濃度環境は、作物の生育に大きな影響を及ぼす環境要因である。イネは耐塩性が低い作物として知られている。しかし、イネのNaイオン含量は、田面水の1/100程度で常にNa+を排除し、細胞内の濃度を低く保っている。また環境中の塩濃度が上昇しても細胞内のイオン濃度は低く保たれている。この塩ストレス回避を担う遺伝子群をイネFull-length cDNA over-expressor gene (FOX) hunting system (羽方ら、H18本大会) および44Kイネマイクロアレイシステムを用いて探索した。イネFOX系統種子を吸水後12日間水耕栽培し、NaCl存在下3日間生育後葉および根を採取し重量を測定した。マイクロアレイはアジレント社イネゲノム情報を基にしたオリゴヌクレオチド44K個がはり付けられたアレイを用い、塩処理により発現変動する遺伝子を調べた。FOX systemにより約2500系統を試験し、塩ストレスを軽減した遺伝子としてZn finger型転写調節因子をはじめ糖輸送体遺伝子などを見いだした。塩処理後18時間目のイネのRNAを鋳型にしたプローブでは脂質代謝、Zn finger型転写調節因子、輸送体などの遺伝子が検出された。FOX systemにより選抜された遺伝子とマイクロアレイにより見いだされた遺伝子とは全く異なっているが、機能的な分類では類似性が高い。いずれの手法においても選抜されたK+チャンネル遺伝子は、酵母変異株を用いたイネ完全長cDNAの機能解析では耐塩性に大きく関わることが明らかにされている。