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受容体様キナーゼ(RLK)は、植物の生長と発達、ホルモン及びストレス応答などに重要な役割を担っている。本研究では、シロイヌナズナのRLKの一つであるRPK2に着目し、葯発達における機能を中心に解析した。T-DNA挿入変異株であるrpk2-1及びrpk2-2では、葯の発達異常により雄性不稔の表現型を示した。rpk2変異株の葯内部では、中間層が内部二次側壁から分化せず、小胞子の成熟がタペート層の異常肥大により妨げられ、大部分の花粉粒は未熟なまま癒合していた。また、個々の花粉嚢における発達段階の恒常性は失われ、同一の葯内に四分子と小胞子が共存する現象が見られた。さらに、変異株の葯内被では、リグニン化の異常により二次壁肥厚が抑制された結果、花粉嚢は開裂しないまま最終的に潰れてしまった。マイクロアレイ解析の結果、細胞壁代謝系酵素やリグニン合成系の酵素を含む多くの代謝系酵素の遺伝子発現が、rpk2変異株の花において抑制されていた。これらの結果から、rpk2変異株の葯では、複数の重要な代謝経路が阻害されることで、正常な花粉の成熟と葯の開裂が妨げられることが示唆された。また、RPK2遺伝子のmRNAは、分解が始まる直前のタペート層において多く蓄積していたことから、RPK2は主にタペート細胞において、タペート層の分解を引き起こす情報伝達系を活性化すると考えられた。