抄録
FOX Hunting Systemは完全長cDNAを用いて多数の遺伝子の機能を解析する手法である.我々はこの手法を利用して高温ストレス耐性に関わるイネの有用遺伝子の探索を進めている.これまでに17,000系統のイネ完全長cDNA高発現シロイヌナズナ(イネFOXライン)のT2ラインについてスクリーニングを行った.その結果,子葉展開時に42°C 90minの高温ストレスを与えてもクロロシスを起こさずに生存できる系統R04333を単離した.R04333に導入されているイネcDNAはHSFドメインを持つ推定転写因子をコードしており,R04333ではこの遺伝子が高いレベルで発現していた.このcDNAを過剰発現する形質転換植物(再導入ライン)を新たに作出した結果,R04333と同様に高温耐性を示したことから,このHSF様遺伝子がR04333の高温耐性の原因遺伝子であると結論づけた.HSF様遺伝子の発現はイネの胚軸を高温処理することによって誘導された.また,R04333および再導入ラインではいくつかのHSP遺伝子が恒常的に発現していた.以上の結果から,FOX Hunting Systemによって同定された本HSF遺伝子は高温ストレス時にHSP遺伝子群の発現を正に制御することで高温耐性に関与していると考えられる.