抄録
ゼンマイ(Osmunda japonica )緑色胞子は,容易に多量の胞子を調製し,長期保存することが可能なので,生化学的研究材料に適している。しかし,原因不明の理由で,しばしば生存率の低い胞子標品が出現することを経験するので,この点が短所であった。本研究では、胞子標品調製時の湿度によって生存率が変動すると仮定し,この現象を検証した。
胞子を異なる相対湿度(RH)で24時間平衡化させたときの生存率・発芽率を測定した。RH0.3%処理胞子の生存率は低く,RHの上昇に伴い生存率は徐々に上昇するが、再びRH81%付近が谷になるように低下し,その後RH100%に増加するにつれて生存率は最大に上昇した。胞子の生存率にばらつきが出る原因は、胞子調製時の湿度が変動するために胞子の水分含量が変化することと結論された。生存率が低い胞子を高湿度に曝すことで生存率が高くなるので,たまに生存率の低い胞子標品が出現するという短所は克服された。生存率の低い胞子を水中で培養したとき,胞子の外には,遊離アミノ酸が多量に漏れ出ていた。未処理胞子の遊離アミノ酸を分析したところ,多種類のアミノ酸が認められ,特にアルギンニンは胞子重量の5%と多量に含まれており,緑色胞子特有の適合溶質になっていると思われる。胞子吸水時における,胞子外側・細胞質・葉緑体の3区間における水の移動速度が生体膜の安定性に,延いては生存率に大きく関わっていると考えられる。