抄録
冠水や土壌の過湿は作物の収量の低下の一つの要因なっているが、これは植物が酸素不足のために生育不良を起こすことが主な原因と考えられる。植物の低酸素ストレス応答については、これまで代謝系の誘導や形態の変化に関して詳細な研究がなされているが、シグナルの伝達や転写調節に関する知見は少ない。そこで、他の作物に比べて冠水ストレスに強いイネを用い、低酸素ストレスの初期応答に関わる遺伝子を明らかにすることを目的として、マイクロアレイ解析を行った。解析は、Affymetrix社のGeneChipイネゲノムアレイに対し、30分間の冠水処理を施したイネの根のtotal RNAを用いて行った。その結果、約800の遺伝子で2倍以上の発現の上昇が見られた。これらのうち、代謝に関する遺伝子が約2割を占めており、その中には低酸素誘導性が知られているADH1, PDC1, LDH, AlaATなどが含まれていた。興味深いことに、転写因子と予想される遺伝子や情報伝達に関わる遺伝子がそれぞれ約1割含まれており、イネの低酸素応答は複雑な制御を受けていることが示唆された。これらの転写因子や情報伝達因子の一部ついて、冠水ストレスによる発現の系時変化や他のストレスに対する応答についてリアルタイムPCR法により解析中である。