抄録
光合成電子伝達系の光化学系1(PSI)複合体は、集光と光化学反応の機能を果たす約700kDaの複雑な構造を持つ超分子複合体である。この複合体を構成する成分(ポリペプチド、光合成色素、キノン、鉄硫黄中心、脂質など)や光化学反応の分子機構の解析は活発に進められてきたが、構成成分が機能的な複合体へ形成される機構の解明は大きく遅れている。その理由として考えられるのが、(1)数多くの構成成分は効率よく分子集合するため、複合体形成の中間体の検出が容易でない、(2)形成過程を介添えする因子(分子シャペロンなど)の解析が遅れている、である。我々は分子遺伝学および生化学的解析が容易である緑藻クラミドモナスを用いてPSI複合体の形成を解析している。ここでは、タンパク質のパルスラベル法などの生化学的解析により、複合体形成の中間体を同定し、そのポリペプチド組成の解析からPSI複合体の形成過程のモデルを提案する。さらに、我々はPSI複合体の形成に必須である葉緑体にコードされたYcf3およびYcf4の複合体形成における役割について解析した。その結果、Ycf3とYcf4は複合体形成の初期に必須な成分であること、少なくともYcf4は巨大な分子集合装置の成分であること、などを明らかにした。さらに光化学系1複合体の形成の分子機構についての今後の展望について議論する。