抄録
光化学系IIは高温に対して感受性が高い。しかし光合成生物が穏やかな高温で生育すると、光化学系IIの高温耐性が増大する。我々はラン藻 Synechocystis sp. PCC 6803 を用いて光化学系IIの高温適応の分子機構を解析した。ヒスチジンタグのついた光化学系II複合体を従来の方法よりも穏やかな条件で単離した結果、高温(38℃)で生育させた細胞から得た光化学系II複合体は、低温(25℃)で生育させた細胞から得たものよりも高温耐性が増大した。この結果から、単離した光化学系II複合体に高温適応に関与する因子が存在することが示唆された。これらの光化学系II複合体を構成するタンパク質の中で高温によって存在量が増加したものについて遺伝子破壊を試みた。得られた変異株の一つでは光化学系IIの高温適応が著しく阻害されていた。この遺伝子は脂肪酸合成の最終反応を触媒する酵素FabIをコードしていた。FabIの特異的阻害剤を細胞に供与すると、光化学系IIの高温適応が完全に阻害されることが確認された。また光化学系IIをリパーゼ処理することによって高温耐性は失われた。以上の結果から、光化学系IIの高温適応にはその近傍に位置する何らかの脂質の新規合成が必要であることが推測される。