抄録
熱帯由来の作物であるイネと、寒冷地作物であるコムギの、個葉光合成と個体生長の温度応答の違いを調べた。植物体は、昼温/夜温= 13/10℃、19/16℃、25/19℃、30/24℃および37/31℃の条件で水耕栽培を行った。個葉光合成の至適温度は、イネでは葉温にして30℃近傍、コムギでは25~30℃の間となった。25℃以下の光合成速度は、コムギがイネを明確に上回った。光合成の至適温度は栽培温度の違いによって変化しなかったが、イネ19/16℃&コムギ13/10℃栽培個体では低温への馴致が若干認められた。個体の乾物生産量は、イネでは30/24℃、コムギでは25/19℃条件で最大となった。葉面積比 (LAR)は、栽培温度に関わらずコムギがイネを大きく上回った。両種とも30/24℃条件において、LARが最大となった。コムギは純同化率(NAR)が低く、特に高温よるNARの低下が大きく、生長抑制につながった。イネでは、19/16℃のNARの低下が著しかった。NARはLARより相対生長速度と種に依存した高い相関を示し、個体生長の温度応答はNARの温度応答との関係が深いことが示唆された。以上、本研究の結果から、同じC3型光合成を行うイネとコムギであるが、イネはより高温に、コムギはより低温に適した光合成を行い、NARもイネはより高温で、コムギはより低温で高いことが明確になった。また、この両種のNARの温度応答の違いが両種の個体生長の温度応答の違いを生じる主要因であることも示唆された。