抄録
イネ登熟期の高温が、収量の減少につながる事例がしばしば認められる。その理由の1つは、高い夜温によって呼吸が促進され、蓄積した炭水化物が消費されるためだと考えられている。しかし、登熟期の夜温がイネの乾物生産に及ぼす影響はよく分かっていない。そこで今回は、千粒重が従来品種よりも35%大きい秋田63号を用いて実験を行った。秋田63号は、シンク容量が大きいため転流が登熟後半まで持続する。そのため、炭水化物の無駄遣いがあるならば、明確にその差が現れると考えた。夜温処理は、人工気象室を用いて開花日から45日間行った。高夜温区は27˚C/27˚C(昼温/夜温)、対照区は27˚C/22˚C(昼温/夜温)とした。その結果、高夜温区の玄米千粒重と登熟歩合は、それぞれ8%と9%減少し、ポット当たりの収量は25%減少した。しかし、高夜温区の個体では夜間の呼吸による炭素の放出が増加したにもかかわらず、開花後45日目の乾物重には差が認められなかった。このため、夜温が高いことによる夜間の呼吸の促進は、少なくとも収量減少の主要因ではないと考えられた。高夜温区の個体では、個体乾物重に対する穂の乾物重が占める割合が増加した。よって、高夜温条件で栽培したイネにおいて観察された収量の減少は、個体レベルでの乾物分配の変化に起因する可能性が示唆された。