抄録
近年、土壌の酸性化により世界の耕作地の40%以上において作物の収量が低下している。酸性化した土壌ではアルミニウムイオン(Al3+)の増加が最も大きな生育阻害要因とされている。一方、土壌pHの低下そのもの、即ち過剰なプロトンも植物の成長を阻害するが、低pHストレス応答の分子機構については知見が非常に少なかった。そこで根の伸長阻害を指標にシロイヌナズナEMS変異体の選抜を試み低pHに対して高感受性を示す変異体(stop1)を取得した。続いてポジショナルクローニング法による原因遺伝子の解析を進め、表現型と連鎖する1塩基の変異をC2-H2タイプのジンク・フィンガータンパク質(STOP1)遺伝子内に見出した。次に相補試験およびT-DNA挿入変異体を用いた解析を行ない、STOP1遺伝子が低pH感受性の制御に重要な役割を持つことを明らかにした。一方金属イオン処理による根の伸長阻害を調べたところ、stop1変異体はAl3+に対して高感受性を示した。Al3+処理を行なうと野生株ではリンゴ酸トランスポーター遺伝子(AtALMT1)の発現誘導とリンゴ酸放出量の増加が生じAl3+耐性が獲得されるが、stop1変異株ではいずれも認められなかった。以上の結果から、STOP1遺伝子は低pHストレス耐性およびAl3+ストレス耐性の両方を制御している重要な遺伝子であることが示された。