抄録
近年、アントシアニンのアシル基転移酵素(AAT)について、アシルCoA を donor とするものについての研究が進められてきた。これに対し、1992年にニンジンのアントシアニン合成培養細胞においてアシルグルコースを donor とする AAT(AGDAT) 活性が報告されている。しかし基質であるアシルグルコースの調製が困難であったため、AGDATについての研究は遅れていた。今回、大腸菌で生産したセンニチコウ由来のシナピン酸配糖化酵素にアラビドプシス由来のスクロース合成酵素を利用した UDP-グルコース再生系を組み合わせることで、4種類のアシルグルコースを効率よく酵素的に合成する系を確立した。
調製したアシルグルコースを基質として、ニンジン (Daucus carota) のアントシアニン合成培養細胞と、その近縁種でありながら主要アントシアニン色素のアシル基のみが異なるハマボウフウ(Glehnia littoralis)のアントシアニン合成培養細胞由来の粗酵素液中におけるアシル基転移酵素の基質特異性を検討した結果、両種の基質特異性に顕著な差は見られなかった。この結果から両種の主要色素のアシル基の違いは、アシル基転移酵素の基質特異性によるものではなく、細胞内における donor であるアシルグルコースの蓄積量比が異なる可能性が示唆された。