抄録
myo-イノシトールは、生体膜のリン脂質成分や細胞壁多糖の前駆物質として、グルコース6リン酸からmyo-イノシトール1リン酸を経て合成される。この最終ステップを触媒、脱リン酸化する酵素が、myo-イノシトールモノフォスファターゼ(IMP)であるが、植物では詳細な解析がほとんど進んでいない。そこで、ヒトのIMPのアミノ酸配列と比較して相同性の高いシロイヌナズナのIMP-like遺伝子を3種類同定し、解析を行った。その結果、AtIMP-like3遺伝子欠損ホモ個体では、胚発達が非常に初期に停止する事が明らかとなった。myo-イノシトール合成経路には、グルコース6リン酸からの新規合成経路以外に、生体膜リン脂質の一部であるホスファチジルイノシトール(PI)からリン酸が外れてmyo-イノシトール3リン酸(IP3)となり、再合成されるリサイクル経路も存在する。 この経路で、シグナル伝達のセカンドメッセンジャーとして重要な働きを持つIP3は、3'(2'),5'-bisphosphate nucleotidase(SAL1)によって脱リン酸化される。AtIMP-like3遺伝子の発現パターンが、PIからのリサイクル経路に関与するSAL1遺伝子と一致して生殖器官で高いことから、AtIMP-like3遺伝子はPIからのリサイクル経路で働き、種子発達初期に重要である可能性が示唆された。