抄録
高等植物は他生物にはみられない柔軟な環境応答能力を持つ.植物を特徴づけるこの柔軟性は細胞核による遺伝情報の機能制御によって支えられている.しかしながら,植物の細胞核自身の研究はほとんどなされておらず,その構造や機能を支える分子はほとんど不明である.高等植物の生命現象を支える細胞核の形成機構を明らかにするために,シロイヌナズナを用いて,二つのアプローチにより解析を進めた.
核膜孔は細胞質と核を結ぶ唯一の通り道である.核膜孔はNucleoporinと呼ばれるタンパク質群によって形成される巨大複合体である.シロイヌナズナのゲノム中に,ほ乳類や酵母のNucleoporin遺伝子のホモログが存在しているが,その機能や生理学的意義は分かっていない.そこで,それぞれのシロイヌナズナのNucleoporinと蛍光タンパク質の融合タンパク質を作製し,細胞内での動態解析を行った.その結果,いくつかのNucleoproinは核膜上に特異的かつ安定的に局在することが分かった.一方,細胞核の高次構造がどのような機構で成り立つのかを理解するために,プロテオミクスの手法を用いて植物細胞に特異的な核タンパク質の同定を試みた.シロイヌナズナ培養細胞から純度の高い核の単離方法の確立し,この標品を高塩,アルカリ,界面活性剤等で処理し,核タンパク質の網羅的解析を行った.