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油糧種子は発芽時の栄養源となる貯蔵脂質をオイルボディに蓄えている.オイルボディの主要膜タンパク質であるオレオシンはオイルボディを小さく保つ機能を持つと考えられている.このようなオレオシンの性質の生理学的な役割を,オイルボディの分解を伴う種子の発芽時に注目して解析した.シロイヌナズナの3種類の種子型オレオシン(OLE1~3)のT-DNA挿入変異体を確立した.電子顕微鏡観察の結果,すべてのオレオシン欠損変異体でオイルボディが野生型よりも大きくなっていた.オイルボディの大型化の程度はオレオシンの存在量に比例しており,最も多量に存在するOLE1の欠損変異体における巨大化が顕著であった.いずれの変異体も,外見上は野生型と変わらず,通常の栽培条件では正常に発芽し成長した.興味深いことに,それぞれの変異体の乾燥種子は,凍結処理を施すことで発芽が顕著に阻害されることが判明した.凍結処理後の種子では,オイルボディはさらに巨大化し,核の形態に異常が見られた.凍結処理により発芽出来なくなった種子の細胞では核が消失していた.種子の凍結処理は,野生型では影響が見られないが,オレオシン量が少ないと致死的な障害を与えることが分かった.以上の結果から,シロイヌナズナのような油糧種子は,オレオシンを大量に蓄積することでオイルボディ同士の融合を防ぎ,冬の凍結にも耐えているという可能性が浮上してきた.