抄録
葉緑体は大量のCa2+を蓄積するオルガネラであるが、その大部分はチラコイドに存在し、ストロマのCa2+濃度はμM以下に保たれている。近年この葉緑体内のCa2+が、細胞内カルシウムシグナルの制御に関わることが示唆されている。例えば、植物を光照射条件から暗条件に移すと、ストロマ内遊離Ca2+濃度の一過的上昇が起こり,引き続き細胞質内のCa2+濃度が上昇する現象が報告されている。葉緑体と細胞質の間に、未知のCa2+コミュニケーションが存在することが示唆される。しかし、その分子機構はほとんど分かっていない。
我々は、これまでの研究から、葉緑体チラコイド膜に局在するCa2+結合タンパク質CASが、気孔運動に先立つ細胞質カルシウムシグナルの発生に必須であることを明らかとしている。今回は、このCASが、暗処理が引き起こすストロマ内のCa2+濃度上昇に関わることを報告する。まず、Ca2+結合発光タンパク質のエクオリンを利用し、葉緑体ストロマ内のCa2+測定系を作製した。その植物体を使って暗処理によるストロマ内Ca2+変化を測定したところ、cas変異体ではCa2+濃度の一過的上昇が見られなかった。また、CASが光照射によるリン酸化を受けることも明らかにしている。これらの結果を踏まえ、細胞内カルシウムシグナルの明暗制御におけるCASの役割について考察したい。