抄録
植物は多くの環境ストレスにおいて余剰な光エネルギーに暴露される。特に、強光乾燥下では気孔閉鎖に伴いCO2固定反応が停止するが、このときチラコイド膜の電気化学ポテンシャルがどのように制御されているについては知見が少ない。本研究では強光乾燥耐性に優れる野生種スイカの生葉を実験材料に、強光乾燥ストレス下におけるチラコイド膜のプロトン透過流量および電子伝達量との関係を、non-focusing opticsを利用したカロテノイド吸収のelectrochromic shift (ECS)測定とクロロフィル蛍光測定を併用することにより評価した。光照射定常条件下の葉に300 msの暗処理を行なった際のECS強度変化とECS減衰の時定数から、チラコイド膜を介したプロトン透過流量を見積った。その結果、直鎖型電子伝達量当たりのプロトン透過流量は、潅水下に比べて強光乾燥下の野生種スイカ葉において顕著に大きいことが見出された。また、methyl viologen (MV)を浸潤させたリーフディスクを用いて同様の測定を行なったところ、潅水下の葉ではMV処理はプロトン透過流量に大きな影響を及ぼさないが、強光乾燥下の葉ではMV処理によりプロトン透過流量の顕著な低下が見られた。これらの実験結果は、強光乾燥ストレス下の野生種スイカ葉において、光化学系Iサイクリック電子伝達経路が活性化していることを示唆している。