抄録
光は植物の生育に必須な要素である。過去、植物の光応答に関する様々な研究がなされており、短時間の光刺激による情報伝達経路の活性化や長時間の光照射によって誘導される代謝経路の活性化などが示されている。我々は、植物の光応答を包括的に明らかにするために、比較プロテオーム解析を行った。播種後13日間暗所で生育させたイネとその後24時間明所で生育させたイネの地上部より蛋白質を抽出し、ゲル電気泳動により40の画分に分画した。ゲル内トリプシン消化で得られたペプチドをナノフロー液体クロマトグラフィーとイオントラップ型質量分析計を用いて解析し、それぞれ868、1026個の蛋白質を同定した。相対蛋白質量の比較には同位体標識法の替わりに検出されたペプチドイオンのシグナル強度を比較する方法を用いても可能であるという知見が得られたので、シグナル強度により600個以上の蛋白質の相対量の比較解析を行った。その結果、リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼとその活性化因子、グリコール酸オキシダーゼ等の炭酸固定・光呼吸に関わる酵素の発現上昇が確認され、光応答による発現変動が検出されていることが分かった。現在、光刺激による個々の蛋白質の相対量の経時変化について詳細な解析を行っている。様々な代謝経路及び情報伝達経路の光刺激による一括した応答について議論したい。