抄録
共生成立の過程には共生特有の相互認識機構だけではなく、病原菌の感染と似た現象が存在する可能性を示唆する結果が報告されている。根粒菌表層のリポ多糖変異体に共生変異体が見出された、根粒菌の接種が宿主植物に一酸化窒素(NO)や過酸化水素などの活性酸素種(ROS)の発生を誘導するなどの報告がある。病原菌のリポ多糖によって植物の病原抵抗性が誘導されることや、病原応答のシグナルとしてNOやROSが発生する現象を考えると、共生成立に特有な相互認識だけでなく、病原応答の視点からマメ科植物と根粒菌の相互認識を捉える必要がある。シロイヌナズナのAtNOA1の変異体は、NO発生レベルが野生型の20%に抑えられ、病原応答関連遺伝子の発現と病原菌に対する抵抗性がともに低下していることから、AtNOA1はNOを介した病原応答に関与していると考えられている。AtNOA1のホモログであるミヤコグサのLjNOA1遺伝子をクローニングし、その発現を定量的RT-PCRにて解析した。その結果、根粒が着生したミヤコグサでは、根粒非着生体よりもLjNOA1の発現が全身的に高くなっていることが確認された。この結果は、マメ科のモデル植物であるミヤコグサに根粒菌が共生することによって、宿主の病原抵抗性が全身的に高まっている可能性を示している。