抄録
イネの葉の発生ステージは、茎頂周辺の葉の配置および構造を基にP1~P6の6つに分けることができる。このうちP4ステージは、葉の基本構造が確立するとともに、葉細胞中の葉緑体がBuild upと呼ばれる色素体遺伝子発現装置の活性化プロセスに入る、キーステージである。30℃で生育した第3葉完全展開時のイネからP4ステージの葉を抽出し、2cm以下、2~4 cm、4~6 cm、6~8 cm、8~10cmの長さに分け、それぞれの葉細胞中の生理的挙動と葉緑体の分化状態を調べた。P4ステージ初期の葉は白色であり光合成能はほとんどないが、P4ステージ後期にかけて葉細胞中のクロロフィル含量およびRubisCOの蓄積量はそれぞれ10倍以上に増加し、光合成の量子収率は成熟葉と同程度まで上昇することがわかった。また、核と色素体にコードされる葉緑体RNAポリメラーゼ(NEP, PEP)による転写産物の蓄積の増加が連続的に観察された。その間、組織中の炭素含量はほとんど変化しないが、窒素含量の減少によりC/N比が上昇していくことがわかった。P4ステージ葉は下位葉の幼鞘内にあり光から遮られた状態にあるが、これらの結果は葉が抽出する直前の短い期間に、葉緑体分化が急速に進行し、葉細胞の生理に大きく影響していることを示唆している。葉緑体形成に関与する他の因子の発現パターンや、葉緑体形成不全突然変異株 virescent におけるそれらの変化も合わせて報告する。