抄録
ホスファチジルセリン(PS)は、通常の植物組織では少量(<2 %)しか含まれないが、花では<10 %と含量が高い。植物におけるPSの機能を明らかにするためには、植物のPS 生合成を遺伝学的に抑制する必要がある。PSは、大腸菌や酵母ではセリンとCDP-ジアシルグリセロール(CDP-DAG)を基質とするCDP-DAG経路で合成され、動物細胞ではホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンを基質とする塩基置換経路(BE経路)で生合成される。シロイヌナズナにはBE型のPS合成酵素遺伝子(PSS1; At1g15110)が存在するがその働きは現在のところ不明である。本研究では、シロイヌナズナPSS1のT-DNA挿入変異株pss1-1について、pss1-1ホモ接合胚が受精後四細胞期までに致死となることを明らかにした。また、PSS1/pss1-1植物体の雄性配偶子形成の観察から、pss1-1花粉では細胞核を消失する割合が高くなることを明らかにした。PSS1-Enhanced Yellow Fluorescence Protein (EYFP)融合タンパク質を発現する形質転換シロイヌナズナでは、EYFP蛍光は花粉内に網目状構造として観察された。以上の結果は、植物の雄性配偶子の発達においてPSの生合成が重要な役割を担っていることを示唆している。