抄録
乾燥種子が吸水して初期に起こる現象については分子レベルでほとんど理解されていない。我々はシロイヌナズナ全ゲノムアレイを用いて、Columbia株の乾燥種子、吸水後15分、30分、1時間、3時間の種子サンプルを用いて遺伝子発現解析を行った。その結果、吸水30分までは乾燥種子に比べ遺伝子発現量が上昇したものはなかった。それに対して、吸水1時間ではZat12 (At5g59820)のみで顕著にmRNA量が増加していた。吸水後3時間では約2200個の遺伝子の発現量が増加しており、その中には種子でABA内生量調節に関わるAtNCED9やCYP707A2、その情報伝達に関わるABI4、活性酸素の生合成に関わる遺伝子群などが含まれていた。さらに3時間後で発現が低下していた遺伝子は約1900個あり、これら遺伝子群のプロモーター領域を調べるとABRE (CACGTG)が有意に存在していた。吸水後のABA内生量を定量すると吸水後3時間目から急激な減少が観察され、定量的RT-PCRを用いた解析からCYP707A2の発現は吸水後3時間目に一過的に上昇していることが示された。またABI3やABI4の発現上昇は3時間目以降に、ABI5の発現量低下は3時間以内に起きている。以上の結果から、吸水後3時間目以降にABA内生量減少に伴う遺伝子発現の変化が起こると考えられた。