抄録
種子は親植物体中で成熟したのち、生長を停止して休眠状態となる。発芽は種子の生長再開であり、吸水と種子休眠性の喪失を前提とする。種子の休眠と発芽は二つの植物ホルモン、アブシジン酸とジベレリンによって調節され、吸水した種子が休眠性を維持するか、あるいは発芽するかはそれらの量的バランスによって決定される。シロイヌナズナCHO1遺伝子はAPETALA2ドメインを二つ持つ転写因子をコードしており、その変異は種子発芽におけるアブシジン酸非感受性の他、一次休眠性の低下をもたらす。逆に、CHO1を35Sプロモータの下流で発現させると、cho1変異を相補して種子発芽がアブシジン酸高感受性となる。cho1と野生型(Col-0)のアブシジン酸感受性の差は収穫直後は顕著であるが、乾燥保存(後熟)を経ると小さくなる。明確な差異が認められる乾燥保存1週目の種子を用いて吸水過程の遺伝子発現解析をおこうと、cho1では二つのGA 3β-oxidase遺伝子、GA3ox1、GA3ox2の転写産物レベルが高いことがわかった。数週間の乾燥保存を経ると野生型種子の吸水過程においてもこれらの遺伝子の発現レベルが高くなるため、cho1ではGA3oxの発現が乾燥保存を経ないでも脱抑制していると考えられた。本発表ではこれらの結果をふまえ、高感度LC-MSシステムを用いた種子吸水過程のホルモン分析の結果について報告する。