抄録
温度は発芽を決定する重要な環境要因である。私達は温度による発芽調節機構を明らかにすることを目的として、野生型種子が発芽できない高温で発芽するシロイヌナズナの突然変異、5系統を単離した。このうち、trg1の種子は常温でABA感受性がわずかに低下し、28℃では明確なABA低感受性を示した。また、やや草丈が低く、果実のさやが短いなど、植物体においても変異形質が認められた。trg1変異は1番染色体の下腕の分子マーカー、TJ-5とFJ-4に挟まれた55kbpの領域にマップされた。この領域に推定される7遺伝子の塩基配列を決定したところ、trg1ではα-xylosidase遺伝子の第二エクソンに14bpの欠失を持つことが明らかになった。この欠失はプロペプチド内に終止コドンをもたらすことから、trg1はα-xylosidaseの機能喪失突然変異であると考えられた。α-xylosidaseは細胞壁におけるキシログルカンオリゴ糖の分解に関わることが示唆されており、trg1種子の高温耐性発芽形質は細胞壁代謝の攪乱によりもたらされると考えられた。α-xylosidaseをコードするTRG1/XYL1は発芽時に最も強く発現が誘導される遺伝子の一つであり、発芽におけるTRG1/XYL1の役割について議論する。