抄録
紅色光合成細菌Rhodobacter sphaeroides 2.4.1において、三重項状態における光反応中心に結合した15シスカロテノイドの構造変化と結合部位との分子間相互作用に関して、ラマン分光が微小な構造変化の検出に有効であることから、低温のサブマイクロ秒時間分解EPR分光で得られている知見(柿谷ら,Biochemistry 45 (2006) 2053)の追試を、室温のサブマイクロ秒時間分解ラマン分光を用いて検討した。
EPRで観測された3つの三重項種3Car(I),3Car(R),3Car(II)が、3つの異なるラマンスペクトルのパターンとして観測された。また、1458 cm–1の非対称変角振動に帰属されるラマン線が励起直後に非常に強くなっており、このことはカロテノイドの13Meの炭素原子とGly M178のC=Oの酸素原子との間で立体障害が起こっていることを示していた。立体障害を避けるために、シス型C15=C15'結合周りに初期の回転運動が起こり、立体障害が隣にあるトランス型C13=C14結合周りの反対方向への、その後に起こる回転運動の要因になっていると考えられる。光反応中心における三重項エネルギー散逸において、スピン軌道相互作用を通した静的メカニズムよりも、カロテノイドの中心付近の二重結合周りの回転運動を通した動的メカニズムが、より重要な役割を果たしているという結論に至った。