抄録
2大栄養素である糖(炭素源,C)と窒素(N)は,様々な生体高分子合成の材料として密接に関連している。植物は,限定された生育環境において,CとNを効率よく利用・分配するために,細胞内の炭素および窒素代謝産物の相対量比(C/N)を感知し適応する能力,すなわちC/Nバランス応答機構を備えている。
我々は,シロイヌナズナを用いて,C/Nバランス応答機構の分子実体の解明を目指している。これまでに,極度のC/Nストレスである糖過剰/窒素不足の環境でも生育可能な変異体ssv1-D (super survival 1-D)の単離に成功しており,C/N応答異常変異体として解析を進めている。その結果,この変異体ではSSV1遺伝子が過剰発現しており,炭素代謝の中核である光合成および窒素代謝関連遺伝子の発現制御が異常になっていることが示された。また,SSV1のノックアウト変異体ssv1-1では,C/Nストレスに高感受性を示した。SSV1遺伝子はRING型のユビキチンリガーゼ(E3)をコードしており,in vitro解析より実際にE3活性をもつことを確認している。さらに,アミノ酸置換を行いE3活性を無くしたSSV1を過剰発現させた植物体(ssv1C143S)では,C/N応答異常を示さなかった。これらの結果より,植物のC/N応答には,SSV1を介したユビキチン-26Sプロテアソーム系による制御が関与することが示唆された。