抄録
ホスホリパーゼD(PLD)は生体膜の主成分であるリン脂質の1つ、ホスファチジルコリン(PC)をフォスファチジン酸(PA)とコリンに加水分解する酵素であり、シロイヌナズナには12存在している。これら12のPLD遺伝子はそのタンパク質構造から植物に特有の構造をもつタイプと、動物や酵母と共通の構造をもつタイプに大別される。我々は後者である動物型のPLDに着目して解析を進めてきた。
PLDz1が植物体全体で常時発現しているのに対し、PLDz2は通常の生育条件では根端および雄蘂のみで強い発現がみられるのみであった。しかし、植物体をリン酸欠乏条件下におくとPLDz2の発現は上昇し植物体全体で発現するようになる。PLDz2の上流4カ所に存在するリン酸欠乏応答転写因子PHR1の認識配列に変異を入れ、GUS遺伝子を用いてプロモーター活性の解析を行ったところ、変異をもった上流配列はリン酸欠乏への応答を示さなくなった。また、PHR1のT-DNA変異体ではリン酸欠乏下でのPLDz2の発現上昇がみられなくなった。これらのことから、PLDz2のリン酸欠乏応答はPHR1が制御していると考えられる。
次に、pldz2変異体のリン酸欠乏下での表現型を解析したが、野生型との顕著な差は見られなかった。そこで、リン酸欠乏下でのPLDz2の役割を生体膜のリン脂質からリン酸を回収することだと仮定し、その検証をこころみた。