抄録
Auroraキナーゼは細胞分裂を制御するセリン・トレオニンキナーゼであり、生物種を超えて高度に保存されている。動物細胞においては、中心体成熟、染色体動態、細胞質分裂などの細胞分裂過程に関与する。ガン細胞においては過剰発現することから、Auroraキナーゼ阻害剤は制ガン剤として開発が進められている。植物のAuroraキナーゼは、体細胞分裂期に紡錘体や細胞板に局在するタイプIと、染色体動原体領域に局在するタイプIIに大別される。しかし、植物細胞分裂における機能は不明である。そこで、制ガン剤として開発されたAuroraキナーゼの阻害剤であるヘスペラジンを用いて植物細胞分裂におけるAuroraキナーゼの機能解析を行った。タバコBY-2培養細胞をヘスペラジン処理すると、分裂中期細胞の割合は増加し、後期および終期細胞の割合は減少した。微小管系の構造に変化は生じなかったが、後期には中央赤道面上に取り残されたラギング染色体がみられ、微小核が生じた。この過程を詳細に調べるために、動原体特異的タンパク質CenH3により可視化した動原体の挙動をライブセルイメージングにより解析した。その結果、染色体整列遅延や染色体分離異常が見出された。以上の結果より、植物Auroraキナーゼは、動原体微小管の修復機構や染色体分離に関与していることが示唆された。