抄録
サイトカイニン合成の初発反応はisopentenyltransferase(IPT)により触媒される。植物病原菌の一種であるアグロバクテリウムのIPT(Tzs)は、高等植物のIPTとは異なる基質特異性を示すことを以前当研究チームで明らかにした。TzsはDMAPPとHMBDPの両者を基質として利用できるのに対し、植物のIPTは専らDMAPPを基質とした。植物のIPTが利用不可能なHMBDPを基質に出来ることで、アグロバクテリウムのIPTは植物細胞内で代謝バイパスを構築し、tZ型のサイトカイニンを直接過剰に生産する。これにより宿主植物細胞内のホルモンバランスが崩れ、腫瘍化が誘導されると考えられる。
Tzsタンパクの構造解析を行った結果、173番目のAspと214番目のHisはTzsの基質結合部位に存在しており、基質特異性に関与していることが予想された。実際にこれらのアミノ酸残基を植物のIPTで保存されているGlyとLeuにそれぞれ置換したところ、HMBDPを利用できなくなったことから、これらはバクテリアと植物の IPTの基質特異性の違いを決めている重要なアミノ酸残基であることが明らかになった。
またTzsの結晶構造から、p-loop 構造を持つIPT とnucleoside triphosphate hydrolase (pNTPase) は共通の祖先タンパク質から進化したと考えられるが、リン酸基を転移するpNTPaseとは異なり、IPTはプレニル基を転移するという特徴があり、独自の進化を遂げてきたと考えられる。