抄録
我々は,FOX Hunting Systemを用いてシロイヌナズナgain-of-function型細胞死形質変異体を単離した.本過剰発現体(DEAR1ox)は,ロゼット葉に過敏感反応様の細胞死が恒常的に引き起こされ,老化が促進される表現型を示した.DEAR1oxの導入遺伝子DEAR1(DREB and EAR motif protein 1)は,DREBドメインとEARモチーフを持つ転写抑制因子をコードしていた.
野生型のDEAR1遺伝子の発現は,低温応答性遺伝子族のDREB1と同様に低温処理によって誘導された.DEAR1oxでは,野生型と比べてDREB1およびRD29Aなどの低温誘導性遺伝子が抑制され,耐凍性が低下していた.つまり、DEAR1は低温応答のホメオスタシスを保つ役割も担っていると考えられた.また,DEAR1の遺伝子発現は病原体感染時において誘導された.DEAR1oxでは,病原体抵抗性遺伝子の発現上昇,SAの内生量の増大や病原体に対する抵抗性が観察された.これらの結果からDEAR1oxが示す細胞死形質は,病原体に対する抵抗性の獲得を目的とした戦略的細胞死であると考えられた.
以上の結果から,DEAR1は低温応答と病原体応答の両方に関与することが明らかとなった.すなわち,DEAR1は生物的ストレスおよび非生物的ストレスのシグナル伝達経路においてクロストークの鍵となる抑制型転写制御分子と結論した.