抄録
植物を利用した有用物質生産を目指す際、遺伝子組換えによる代謝系酵素の機能強化は有効な手段となり得るが、効率的な物質生産を行うためには標的となる酵素の選択が極めて重要である。有用物質の生産速度はその代謝系のフラックスに支配されており、代謝系にはフラックスを律速する酵素が存在する。本研究では、糖リン酸代謝系ならびにカロテノイド代謝系における律速酵素の特定を目指し、13Cエンリッチメントにより代謝ターンオーバーを解析するシステムの構築に取り組んだ。定常の光合成速度を示す生葉に13C炭酸ガスをフィードしてin vivo標識を進め、一定時間後に凍結採取した葉切片から得た抽出液を質量分析装置に供することにより、代謝中間体の13C標識化率を測定した。光強度1,000 μmol m-2 s-1、CO2濃度600 μmol mol-1で光合成させたタバコ生葉から抽出した水溶性画分をCE/MS分析に供したところ、Calvin回路に位置する糖リン酸の標識化率は標識開始10分後に飽和値に達した。グルコース1リン酸(G1P)の標識化率はグルコース6リン酸(G6P)のそれと比べて低いことが明らかとなり、G1PとG6Pの変換反応が糖リン酸代謝系の律速段階となっていることが示唆された。