抄録
植物組織が機械的ストレスを受けた時、細胞膜を横切る水の移動が生じるだろうか?もし、外界からの力による変形が細胞に生じたとき、細胞膜を横切る水の移動が生じなければ、外界から加えられたエネルギーは細胞の変形による力学的歪みにそのまま保存される。一方、細胞膜を横切る水の移動が生じるならば、外界からのエネルギーの一部は物理化学的な水ポテンシャルに変換されて保存される。この違いは外界からの機械的ストレス応答のメカニズムに根本的な違いを生じる。
細胞膜を横切る水の移動が生じているとすると、細胞膜に存在するアクアポリンの関与が想定されるので、パンジーなど被子植物の葉や茎を機械的に折り曲げた時に生じるストレスの緩和にアクアポリンの阻害剤である塩化水銀の影響を調べた。同濃度の塩化水銀によって、アポプラストの粘弾性に全く影響がないことは確認されたが、塩化水銀は非常に小さいながらも、折り曲げストレスの緩和を遅らせる効果があるように思われる。このことは、植物体が外界からのストレスの一部を水ポテンシャルに変換して耐えていることを示唆している